源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820) (朝日選書 820)
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源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820) (朝日選書 820)山本 淳子
オススメの一冊
高校生読者も対象としたにしては、最初の花山帝のくだりは少々表現がキツイか。もちろん、一条帝との対比を意図したものであること等は分かるし、その点では成功している。また一条帝と定子のそれは、厳密にいえばやはり「恋愛」ではありえない。しかし、
そんな瑣末なことよりも、この時代の後宮の世界を立体的にわかりやすく示し、読後もいろいろ知的好奇心をかきたてられた点で好著といえる。父・藤原道長からの彰子の自立には母や夫の存在が自身の皇統の自覚を促したかとも思わせる。
『栄花物語』を大胆に用いて、一条朝を描く
従来、あまり史料としては重んじられなかった『栄花物語』を、「人々の関係や微細な心理に深い関心を寄せていて、見逃せない独自の情報も多い」として、積極的に取り入れ、さらには『枕草子』『紫式部日記』『権記』『小右記』などを駆使し、最新の研究成果を基礎に、一条天皇と定子、彰子の関係を、生身の人間として丁寧に描いています。圧巻は、定子の遺児敦康親王に対する彰子の思いの分析で、本当に細やかに述べられています。
また、受領層出身の定子と皇族の血を引く彰子との出自から来る性格の違いの指摘も興味深く、それぞれのサロンの雰囲気の相違につながったことが理解されます。
完成された文体で人間像を描く
本書は、源氏物語成立史を縦糸に、紫式部が間近に見た天皇や后たち、藤原道長とその周辺の人々の姿を描き出したもの。各種の歴史資料や作品から、人間像を浮かび上がらせるその手法は見事で、専門外のものでも思わず引き込まれる魅力を備えている。また、宮廷女性の自立が一つの隠れた主題になっており、とくに父親道長への反発から劇的に成長していく一条天皇后・彰子についての記述からは、著者の共感が伝わってくる。さらに注目すべきなのは、簡潔かつ明晰でありながら、軟らかくリズムを備えたその文体で、研究者にしておくには惜しいほどの完成度である。文才と、冷静な中に情熱を秘めた観察眼。それは、おそらく紫式部にも通じ、紫式部への傾倒から身につけられたものでもあろう。こんな言い方が、著者の意に沿うかどうかは分からないが、これを機に文学史の語り部としての活動を続けてほしいものだと思う。四つ星としたのは、必ずや出るであろう次作に期待してのことで、十分、五つ星に値する。
源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820) (朝日選書 820)
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